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外国人土地取得問題の考察と提言ーー外国人が日本の不動産を買い漁っている問題を不動産鑑定士が解説

外国人(とくに中国資本)が日本の土地を買い漁っている問題を不動産鑑定士が解説します。

長渕剛さんの「外国人に土地を売らないでほしい」発言が波紋を呼ぶ!

歌手の長渕剛さんが、2022年10月7日公開の自身の公式You Tubeチャンネル「Tsuyoshi Nagabuchi」で、香川県高松市のレグザムホール(香川県民ホール)でのライブの模様を動画配信しました。

長渕さんのライブでは、日の丸を掲げたり、ファンが日の丸を振ったりする光景がよく見られるそうですが、この香川でのライブでも、多くのファンが日の丸を左右に振る光景が見える中で、長渕さんはMC(ライブ中のトーク)でこのような発言をしました。

こんなに素敵な香川、まだまだ緑も多いです。空気も綺麗です。太陽も綺麗です。だからみんなの心も綺麗です。今日はたくさんの国旗が左右に揺れた。本当に綺麗です。だからね、これ以上、外国人に土地を売らないでほしい!僕たちの生きているこの日本、僕たちの敬愛するこの国は今おかしいです。みんな気づいてるよね?僕は政治家じゃないから、政治家じゃないから、政治のことはよく分からないけれども。だけど、おかしいってことだけは感じることができる。マスコミに流されないで、人に流されないで、僕も君たちも自分の感性を信じて、正しいことは一つしかありません。もう一度僕たちは立ち上がるんだ。いいですか、僕もまだまだ頑張るから、一緒に立ち上がろう、いいね!(出典:長渕剛公式You Tubeチャンネル「Tsuyoshi Nagabuchi」)

この長渕さんの香川会場でのライブ中の発言が大きな反響を呼びました。

長渕さんは、2022年9月27日公開の北海道札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruでのライブ動画でも、おなじみの日の丸が大きく揺れる会場で、このような発言をしていました。

僕は北海道は大好きです!なぜならば、空が高いし青いし、空気が綺麗だし、水も豊かだし、人間も優しいし、僕は大好きです!この北海道という街はその昔、開拓民たちが一生懸命に開拓した街だ。お願いだから、この自然に満ち満ちたこの土地を、外国人に売らないでほしい!歳を一つずつ重ねていった、老いていく私たち人間は、歳に抗って、そしてお金にまみれないで、心を一つにして今こそ、僕たちの先人たちが築いてきた共有する心や、和合する心や、そういう日本人の美しい気持ち、それを大事にして、またここから、5年、10年、15年、100年と一緒にやっていこう。(出典:長渕剛公式You Tubeチャンネル「Tsuyoshi Nagabuchi」)

ここ何年かにわたり、日本国土全体で(2006年~2021年の間に)外国資本に買収された森林面積は、2,614ヘクタールに及んでいますが(林野庁発表)、その70%が北海道の森林ということもあり、長渕さんの発言には理解を示す声が多かったようです。

しかし、香川県など北海道以外のライブ会場でも「外国人に土地を売らないでほしい」との発言をしたとなると、外国人への偏見があるのではないかなどを含めて賛否が分かれ、ネット上でも大きな反響となっているというわけです。

長渕さんの発言については、この動画だけでは真意がわからないので個人的な意見は差し控えたいと思いますが、森林に限らず、外国人が日本の土地を買い漁ることについて、私は、安全保障上の問題、とりわけ食料安全保障の問題と捉えてています。今回は、この問題に関する提言を述べたいと思います。

その前提となる日本の法整備について説明します。

外国人の土地取得に関する現状の法整備

そもそも、外国人の土地取得に関する規制は存在するのでしょうか。

実は、1926(大正15)年11月10日に施行された「外国人土地法」が存在します。
第1条で、「土地の権利の享有を制限している国」に属する外国人と外国法人に対しては、日本における土地の権利の享有について、勅令(政令)によってその外国人と外国法人が属する国が制限している内容と同様の制限ができると明記しています。

【外国人土地法 第一条】
帝国臣民又ハ帝国法人ニ対シ土地ニ関スル権利ノ享有ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スル国ニ属スル外国人又ハ外国法人ニ対シテハ勅令ヲ以テ帝国ニ於ケル土地ニ関スル権利ノ享有ニ付同一若ハ類似ノ禁止ヲ為シ又ハ同一若ハ類似ノ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得

また第4条では、国防上必要な地区においては、勅令(政令)によって、外国人と外国法人の土地に関する権利の取得を禁止、または条件もしくは制限をつけることができると定めています。これに則り、戦前は一部制限が付されていた時期がありましたが、終戦後の日本国憲法下において、この法律に基づく政令は制定されていません。

【外国人土地法 第四条】
国防上必要ナル地区ニ於テハ勅令ヲ以テ外国人又ハ外国法人ノ土地ニ関スル権利ノ取得ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
②前項ノ地区ハ勅令ヲ以テ之ヲ指定ス

外国人による土地取得問題では、国際法上、「相互主義」が適用されるべきであるという意見があるように、日本の「外国人土地法」の第一条は「相互主義」の理念を謳っているわけです。

一方、例えば中国では、外国人が中国の土地・建物を取得することができないわけですから、中国人が日本で土地・建物を自由に取得することは「相互主義」の理念に反すると言えるでしょう。

それなのに、日本国憲法下では現在に至るまで、外国人の不動産取得を制限する政令が発令されていないのです。そのため、現時点では、「外国人による日本の土地取得」を制限できない状況です。

なぜ、国際法の原則に沿って必要な措置を取らないのでしょうか。

その最大の原因は、「私権の制限」につながる懸念(憲法違反)であると言われています。

さらに、国際協約における整合性の問題が大きく立ちはだかっています。日本は、世界貿易機関(WTO)協定の一部「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)に加盟する際、「外国人による日本の土地取得」を規制する留保条項を盛り込みませんでした。これが、「外国人土地法」による政令発令の「足かせ」になっているのです。

「重要土地等調査規制法」の制定と課題

日本国内で「外国人による日本の土地取得の規制」がなかなか進まないなかで、中国をはじめとした外国資本が日本の土地を買い漁っている問題が表面化しています。

その間、国会でも、この問題について議論され、2021(令和3)年6月に「重要土地等調査規制法」(正式名称は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」)が可決されました。

この法律は、自衛隊基地や海上保安庁の施設等の重要施設、または国境離島等の機能の阻害を防止するため、その機能を阻害する行為に供される恐れのある施設周辺及び国境離島等の土地(重要土地)のうち一定のものを指定し、調査、規制等の措置を講じることを定めています。

詳しくは、内閣府・「重要土地等調査法」ページをご覧ください。

「重要土地等調査規制法」の制定で、外国人による日本の土地取得問題に歯止めがかけられるかと言えばそうではありません。なぜなら、売買の規制をしないで「利用の規制」を設けているだけ、なのです。

松野博一官房長官は「防衛関係施設や国境離島などの機能を阻害する行為が行われるリスクが高まっている」(『産経新聞』2022年10月10日付コラム記事)と語ったそうですが、リスクの高まりを認識しているならば売買を規制すべきでしょう。事が起こってからでは遅いのです。こういう見解を述べる閣僚のリスク感覚は、国際感覚が欠如している上、外国人による日本の土地取得問題に真剣に向き合っているとは言い難いものです。

国会議員に何を望むかと言えば、安全保障です。ですから国会議員には、国家のリスクに関する国際感覚を養い、「今そこにある危機」となっている外国人による日本の土地取得問題の歴史的経緯を学び基礎知識を学習して安全保障に取り組んでいただきたい。突き詰めれば、これだけは国会議員だけが担える任務なのです。

衆議院予算委員会での北神衆議院議員の質問が秀逸!

「外国人による日本の土地取得問題」が安全保障問題であることを提言として公開する準備をしていたところ、同じ内容を質疑する議員を国会中継で拝見したので、紹介します。

2023年の1月31日の衆議院予算委員会で、北神圭朗衆議院議員(無所属・京都4区選出・有志の会)が、日本国内の土地を外国人に買い漁られているという問題を鋭く指摘し、岸田総理をはじめとする閣僚に見解を質しました。

北神議員の質問や指摘は、外国人土地取得問題の論点が非常にわかりやすいものでした。国際感覚も抜群で、国際協約上の「足かせ」という課題についても、イギリスを例にして解決策を提示しました。この問題に真剣に取り組み、学習し、周到な準備をしなければ、あれほどの的確な質疑はできません。こういう国会議員がいることに驚愕しました。ぜひ将来は総理大臣になっていただきたい人物です。

以下に、北神議員の質疑と要旨を紹介します。

北神圭朗衆議院議員(無所属・京都4区選出・有志の会)の質疑内容

◆外国資本が全部悪いという話ではないが、よからぬ意図を持っている外国資本に対しては防衛すべき。

◆まずは、農地、森林で、食糧の安全保障は、農産地域だけでなく、国民全員に関わる国家の重大な使命なので、大前提として農地資源を守っていかなければならない。

◆森林も水を育む水源地で、農家にとっては生命よりも変え難い水を供給し、山が細ったら川や海が栄養失調になって漁業にも影響するので、いま一度この農地とか山林の重要性というものを再認識をし、その価値を再認識しなければならない。

◆近年、外国資本が相当この農地や森林を買い始めている。農地は、約68ヘクタール(外国法人等による農地取得面積は2017年から2021年までの累計で東京ドーム約14.5個分)、うち中国(香港含む)が26ヘクタール(東京ドーム5.5個分)。
森林は、この11年間で4.7倍(558ヘクタール→2,614ヘクタール)、外国資本が森林面積を買っている。2,614ヘクタールは東京ドーム5,990個分、うち中国が993ヘクタール(東京ドーム212個分)を買い占めている。

◆プロから言うと大したことないと思うかもしれないが、そうではない。調査に出ない部分もあるし、届出をしていない、日本人の名義借りで買っていればこれも出ない。そもそも把握が難しい統計なので、氷山の一角だと認識すべき。

◆閣僚のみなさんも地元でこういう話をよく聞いていると思うが、もっと危機感を持つべき。外資の出資比率規制とかも考えていくべきではないか。

◆借りている事例が多いという話だが、大体そういう方法でまずは借りて、それで農業適格法人にして、そこから本格的に農地買収に走るというのが大体のパターンなので、やはり農地法も規制しないといけない。森林法も規制がなくて、事後の届出制しかないので、そこを是非検討すべきだ。

◆放送法だったら1/5未満(外資の出資規制)、航空法だったら1/3が上限になっているが、これらにくらべて農地や森林は守る価値が劣るのかというと私は違うと思う。やはり生命をつなぐ農地森林というものをしっかり、外資規制がいいのかどうかは別にして、そのぐらいの危機感を大臣には持っていただきたいし、食糧安全保障をやる上で、この問題も同時に解決しなければいけないと思う。

◆私が勝手に言っている話ではなく、例えばフランスは原則自由だが、大統領の政令で(フランス政府HP)、水源の保全、安全性、調達。食糧安全保障に関わる農産品の生産、加工、流通については、大統領が指定をしたら、事前認可制になる。届出ではなく認可になる。ちなみにフランスは、日本と同じようにWTOでは土地取引については何ら留保をつけていない。こういうことをちゃんとやっている。

◆アメリカはもっと凄くて、連邦政府の下院議会では、名指しで、中国、ロシア、イラン、北朝鮮は届出とかじゃない、認可制でもない、取得禁止というような法案を今提出している。州の方でも先週テキサス州では同じような法案が出されています。ほかにも13州くらい検討しているという段階。

◆アメリカの食糧自給率132%、フランスの食糧自給率125%で、日本は38%。こんなに食糧が余っている国でも危機感を持っているので、日本はもっと真剣にこの問題を考えるべき。

◆土地全般の話も深く関わってくる。2018年頃から欧米、ニュージーランド、オーストラリアは農地だけじゃなく土地全般に対して外資規制というのを強化しつつある。これはなぜかーー一言で言うと、中国だ。我々(国会議員)ははっきり言わないといけないと思う、中国だ。

◆なんで中国なのか。中国というのは、企業はそれぞれあるが、その背後には中国共産党とか人民解放軍というのが透けて見え隠れするから。それで各国がそういう危機感を持っているということ。そういう意味では、土地一般についても規制というものを考えないといけないと思う。

◆(重要土地等調査法の施行)それはそれで頑張っていただきたいが、これは、防衛施設、離島、国境1キロくらいが対象で、私が今日申し上げている問題意識は、本当にそれでいいのかということ。

◆農地、森林は、含まれていないし、一般の観光資源の部分も含まれない。イギリスの方式というのは「GATS」で同じような条件にあるけども柔軟だ。

◆イギリスの方式は、17の戦略分野、防衛施設などは届出を義務付けるが、それ以外、農地とか森林は届出は任意。でも大事なのは、届出をしてても、してなくても、17分野に入っていても入っていなくても、イギリスの政府は安全保障疑念があったら、調査をして、場合によっては契約をさせない、あるいは無効にするという権限がある。

◆日本と国際法上、条件は、フランスもイギリスも同じ。でも、このやり方だったら、非常に柔軟だ。私も外国資本を全部排除しろとは言ってない。ただ、中国は政府の防衛白書にもあるように、軍民融合、軍と民間が一体となって経済活動を防衛手段として考えている国だ。そういった国に対して全世界が危機感を持っているということだ。

◆宗教法人にも手を出している。文化庁の世界では、何もできない。農林水産省も若干危機感を持っていると思うが、重い腰を動かそうとしていない。この土地一般の規制というものをやらなければ、神社仏閣の土地とか文化財が外国人の手に渡ることになる。無税だから、マネーロンダリングの温床にもなりかねない。我々もこれにちゃんと向き合って、規制をしていかなければならない。

◆最後に総理へのご提案。これは私の妄想でも陰謀論でもなく、先進国では当たり前の話で、自由主義諸国共通の危機感だ。ただ、懸念点は、各国バラバラに規制を強化してるので、行き場のない外国資本はどうなるか。一番規制の甘い我国に殺到する可能性がある。
だから5月の広島サミットでは、同じ危機感を共有する国が集まるので、是非総理が指導力を発揮して、これらの国と一緒にバラバラではなくて、この中国資本の問題についてちゃんと共通の対処法というものを検討すべきではないか。

◆柳田國男さん(農商務省の官僚)は、「土地と国民を連結させるのは、農業。土着させるのが農業」と言っている。この農業を是非大事にして、そのサミットで臨んでいただくことを強く要請して、質疑を終える。

・・・・・北神委員の質疑、以上・・・・・

北神議員の質疑は、外国人による日本の土地取得問題の本質を鋭く指摘し、先進諸国の中国資本への危機感と本気度を明示しています。翻って、日本がいかにこの問題に危機意識が薄いかを糾弾し、遅れを取っている現状を糺す質問を首相と閣僚に浴びせました。

国民に向けてはわかりやすく具体的な説明、閣僚に対しては危機感が薄いことへの怒りの正論、総理に向けてはサミットでの提言と、非常に建設的な質疑であったと思います。このような国会議員が私のふるさと、京都にいることを誇りに感じます。

国会での議論を見ていると、こんなレベルの低い議員を送り込んできた選挙区民は何を考えているんだと絶望的な気分になることが多々ありますが、京都(4区)の方々は、よくぞ無所属でこのような素晴らしい議員を国会に送り込んでくれたと感謝の気持ちでいっぱいです。

この質疑を受けた総理、閣僚、与党の議員の皆様にも、北神議員が指摘した安全保障問題に真剣に取り組み、建設的な議論をしていただきたいと切に願います。外国人による日本の土地取得問題はぜひとも早急に、法制化していただきたいと願うばかりです。

2023年1月31日の衆議院予算委員会での北神圭朗議員の全質疑内容については、こちらに全て記載してありますので、是非、ご覧ください。

関連記事 外国人土地取得問題ーー衆議院予算委員会での北神圭朗議員の質疑が素晴らしかった! 

ご興味のある方は、北神圭朗公式You Tube「正心誠意」で本人のコメントやその質疑の内容を見ることもできますので、こちらもご覧になってください。

外国人による土地取得問題は、「食糧安全保障」である!

北神圭朗衆議院議員の指摘した「外国人による土地取得問題」の本質は、「食糧安全保障」です。

ところが、北神議員の質疑に対する担当大臣や総理の冷淡かつ軽薄な答弁には呆れました。食糧安全保障についても、危機感がなく、何も考えていないことがよくわかりました。

北神議員も言ってるように、私も外国人資本の全てに土地取得規制をかけるべきであるとは考えていません。かつて日本資本も、ニューヨークのロックフェラーセンターを買収するなど諸外国で同じようなことをしていたのです。

ですから、この問題も歴史の教訓から学ぶ面はあるので、国内経済の活性化に貢献する所有権移転を糾弾するつもりはありませんが、いま日本の国土で起きているのは、いずれ日本の国益が大きく損なわれ、国防上の問題が顕になる可能性が高い問題がある、ということなのです。日本の子供たちを苦しめかねないこの問題に対して、我々の世代が手を打つべきなのです。

そして、もう一つの最重要課題が、食糧自給率です。私は、日本の食糧自給率は最低でも60%超が必要であると考えています。以下に、これを実現するための4つの提言を述べます。

【提言1】休耕地の国有化と若年世代への無償供与

限界集落等での休耕地は、全て国が買い取り国有地とすることから始めるべきです。その財源は国債で賄います。国債は負債になりますが、それに見合う国有財産(農地、山林)が残ります。

そして、その農地は無償で、自然に囲まれた生活を望む子育て世代や、国公立大学農学部と農業高校の出身者たちに活用委託します。

農業に従事したいが生計を立てることができるか不安だという若年世代に対して、農地と農機具、農業のノウハウも含めて向こう3年間は地方行政が生活保障を担い、彼ら彼女らが選んだ土地で末永く幸せに働くことのできる環境を調えることが安全保障である、という基本政策を構築してほしいものです。

北神議員は、外国人(資本)による森林取得についても質問しています。ネットでは、森林を買っても自国へ持ち帰ることができないから問題ない、という意見が見られますが、森林は土地の問題だけではありません。その地に育つ森林という国有財産には、災害防止という重要な役割があります。外国人(資本)が取得した森林を伐採すれば、災害リスクが高まるのです。ですから、森林取得規制も安全保障として講じるべきです。森林が国民の命と財産を守る重要資源であることを忘れてはなりません。

【提言2】若年世代の移住支援

都心で生活する若年世代の中で、特に非正規雇用の方々は将来への不安が募り、生活に疲弊しています。また子育ても困難で、豊かな生活を営むことができない状況にある方も多くいます。さらに、コロナ以降はリモート勤務が定着したことで、都心を離れた自然の溢れる土地で子育てをする方が増えています。

社会は大きく変化する渦中にありますが、ESGのような世界的なムーブメントは自然との共生に回帰する人間本来の欲求を表す現象ですので、農業従事を促進する政策を一体化する好機と考えます。

では現実的に、派遣勤務に疲れて農業に従事したいと望む若年世代が、思い切って地方に転居することができるでしょうか。

最大の問題は、生活の保障です。定期収入があれば、転居、転職を選択する方が増えるでしょう。国と地方行政が【提言1】を踏まえ、大型農機具なども国家予算で無料で貸し出し、各地の行政が住居を提供することで、若年世代は農業従事を選択しやすくなります。特に子育て世代が農業に従事すれば、ゆくゆくは少子化対策になると考えます。

この提言に伴い空き家問題への対策も可能です。各行政の長が保証人になることで、若年世代が空き家を使用する道が開かれるからです。これはかつて私が裁判所の許可を得た例があるので、いずれ説明したいと思います。

【提言3】農業教育機関の優遇制度

日本全国には相当数の大学農学部、農業高校が設置されています。ひと昔前の日本人は、食糧問題を最優先事項と考えていたのでしょう。

大学農学部と農業高校は本来、日本国内の農業の担い手を養成する高等教育機関だったはずです。ところが今や、農業の高等教育、専門教育を受けた人材の多くは、農業に従事していません。生計を立てるために、農協や食品メーカー等への就職を選択するのです。

1965(昭和40)年には日本の食糧自給率は70%以上でした。社会の変化によって就労状況が変化したというのは詭弁です。農業を食糧安全保障と位置付けなかった国の無策が、農業に従事したくても生計を立てることができない現状と、食糧自給率が40%を切る危機を招いたのです。

それなのに、国が危機感を持てないのはなぜでしょうか。先進諸国でもダントツに低い数字なのに、なぜ放置されているのでしょうか。いったい誰の責任なのでしょうか。この問題の責任者は誰ですか。欧米諸国の首脳から見れば、また欧米の安全保障の常識からすれば、日本の指導者は「思考停止」同然でしょう。

農業の危機は、食糧安全保障の危機です。これを克服する方法の第3は教育です。卒業後の農業への従事を条件として、農業教育機関の学費免除制度を提案します。

我が国には、その先例があるのです。戦前の師範学校(教員養成専門教育機関)や陸軍士官学校、海軍兵学校(軍人養成専門教育機関)などは学生優遇制度を設置していました。そのため、家が貧しくとも志の高い人材には軍人か教員の道へ進む選択肢がありました。まさしく、『坂の上の雲』に描かれた秋山兄弟のように、勉強をしたいのに学費を捻出できない貧困層の若者を国が支援していたのです。

私の父(明治36年生まれ)は京都師範学校を卒業し、京都で教員をしていたのでよく聞かされたのですが、師範学校では、卒業後教職に就くことを条件に授業料無料で生活費も保障されていたので、優秀で貧しい家の子弟への救済策の役割を果たしていたそうです。

現在でも、防衛大学や防衛医科大学などに同じような制度があるようです。それだけ、安全保障(防衛)は重要であるということです。同じく、食糧自給率も安全保障です。北神議員のように、これを国家の基本政策として重要視するならば、農業教育機関の学生を対象に、生活費はともかく、せめて学費は優遇してよいと思います。

ここまでの3つの提言が、食糧安全保障の基本政策案です。外国人による土地取得問題の本質は食糧安全保障に直結します。それゆえセットで考えるべきであることを提言します。

食糧安全保障はこれからの日本の重要な課題であり、しかも政府や国会にとって喫緊の課題です。食糧自給率を上げるための施策と土地規制の問題をセットで考え、建設的な議論をしていただきたいと強く要望します。

【提言4】国産食糧の需給バランス

食糧の供給サイドに関する政策によって食糧自給率を向上させる一方で、需要面の施策も必要です。

例えば、国産の米粉、小麦粉、つなぎの材料などの増産ですが、良質でないと需要は喚起できないので、それを可能にする技術革新に大幅な予算をつけるなど、国家主導の改革を要します。

パンやうどん、パスタなどに使う小麦粉の多くは輸入に頼っています。輸入品の優位性は価格優位によるので、まずは良質な国産品の供給を増やして需給バランスの改善を目指すべきでしょう。その上で、安全、安心な国産材料の推進を啓蒙すべきです。

輸入品の数倍の価格の国産品を啓蒙したところで、浸透する世帯が限定されることは火を見るより明らかです。この状況で国産品消費のプロモーションに税金を投じる役所の無策は今に始まったことではないのでここでは論じませんが、霞が関には、まずは需給バランスを考えてください、と申し上げたいところです。

先日、テレビで見たのですが、農学部出身の若い夫婦が、国産品が少ないのは問題であると考えて、埼玉県で農地を借り入れ、小麦粉と胡麻の生産に挑戦していました。その心意気に非常に感銘を受けました。若い人の技術革新の力量と創意工夫は、シニア世代の知見をはるかに超えるものです。シニア世代で若手の躍進を阻み老害となっている方々に、ぜひ2人の奮闘を見ていただきたい。良心があれば、一刻も早く指導者の世代交代が必要であることがおわかりいただけるでしょう。

2人の表情には精気がみなぎり、働くことが人生そのものであることを強く感じました。政府と行政は、この2人のように志のある若者の挑戦と技術革新を支援すべきです。

日本の未来を担うのは若者であり、国を豊かにするのも若者の力です。

日本の若年世代がみな幸せな人生を送るように、政治と行政は責任をもって国家運営に臨んでください。

  • この記事を書いた人

榎本研二

三京株式会社 代表取締役 【不動産鑑定業者登録番号 埼玉県知事(11)69号】  不動産鑑定士 榎本研二 不動産鑑定士として50年にわたって個人のマイホーム購入に絶対失敗しないためのアドバイスを提供。人生最大かつ最重要の買い物であるマイホーム購入前に、プロフェッショナルの見解を参考にしたことで、買ってはいけない物件を見送った方々はみな、現在ハッピーライフを送っています。複雑な不動産関連の税金対策も、ベテラン不動産鑑定士ならではの策を講じてみなさんの資産を守ります。

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