阪神淡路大震災から28年。マイホーム購入時の教訓

マンションのコラム

マンションはなぜ販売されるのかーーマイホーム購入時に考えるべきこと

阪神淡路大震災から28年ーマイホーム購入時の教訓はどんなことでしょうか。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。この教訓はマイホーム購入時にも当てはまります。

当サイトでは、マンション購入を検討する際の重要ポイントについて説明しています。

▶︎詳細は、こちら↓の記事を読んでください。
こんなマンションは買うな!不動産鑑定士のマンション購入アドバイス

今回は、マンション購入にまつわる「歴史的教訓」を説明します。

マンション販売が行われなかった理由

マンションという形態の住宅が日本に浸透したのは戦後のことです。敗戦後の日本の住宅は欧米化が進みました。国土が狭く、都市部への一極集中型社会にならざるを得ないことを考えれば、マンションという住宅形式の採用は仕方のないことだったと思います。

問題は、マンションという住宅形式ではなく、その分譲販売です。どういうことか、説明しましょう。
 
私は、不動産鑑定士となり不動産の専門家として独立する前、大手流通グループの不動産部で働いていました。創業者の存命中、そして没後数年間は、創業者の理念である「感謝と奉仕」の精神がグループ全体に浸透していました。

例えば、不動産部門では、構造の偽装や手抜き工事のマンションなどは論外であり、そのような兆候は厳しく管理されていましたし、完工マンションについては、分譲販売は法的に問題が多いことから「お客様(買い手)の利益にならない商品である」という理由で行わていませんでした。

マンションに関わる完全な法的整備は難しい

ところが、創業者の死後、二代目がグループトップに就任してからは、会社の利益が第一と考えられるようになりました。そして、マンションの分譲販売が積極的に行われるようになったのです。

その間に法律の整備が行われたかというと、そうではありせん。確かに1962年には、マンションの基本法とも言われる「建物の区分所有等に関する法律」が制定されましたが、マンションの販売に関する法整備はなされませんでした。これが非常に重要なポイントで、マンションのもつ宿命と言えるのですが、買い手の利益になる完全な法整備は難しいということです。

現在も、そのような意味での法律は未整備です。その結果、1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災では、震災被害により傾いたマンションにまつわるさまざまな問題が浮き彫りになりました。

国や地方行政は、傾いたマンションの面倒を一切みてくれません。震災で傾いたマンションを所有する方々は本当にお気の毒だったと思います。

阪神淡路大震災で大きな被害を受けた阪神地域のマンションでは問題が表面化しましたが、実は未だ問題が表面化していない手抜き工事のマンションが数多存在します。このことを大震災の教訓として記憶しておいてください。

2005年に起きた構造計算書偽装事件では、構造計算の段階での偽装が問題となりましたが、実はこれよりも、手抜き工事のほうがはるかに数が多く深刻な問題なのです。そして、このような手抜き工事マンションは、阪神淡路大震災のような災害があるまで表面化しません。

構造計算書偽装事件ではゼネコンの社長が逮捕されましたが、もし地震が起きていれば、マンション崩壊や傾いたりひびが入ったりしたことを地震のせいにできた可能性が高いのです。震災後は、手抜き工事が原因か地震が原因かの特定は難しいでしょう。言い換えれば、多くの施主は地震などの災害の発生により、マンションが抱える問題を包み隠すことができてしまうのです。

これが、法的な整備が難しいという意味です。そして、この法整備は不可能だと私は考えています。これが、マンションの分譲販売というものに対して大きな危惧をもつ最大の理由です。買い手としては、マンションの多くは手抜き工事が行われていると考えたほうがよいでしょう。

歴史的教訓を甘く見るな!


 
阪神淡路大震災で傾いたマンションを所有する方々や偽装マンションで被害に遭われた方々を見て思い出すのは、先に述べた、私が在籍したグループの創業者の「感謝と奉仕」の精神です。その精神が現在も生き続けていたならば、お客様(買い手)の利益にならないマンションの販売は行われなかったでしょう。そして、マンションを購入して被害に遭われる方々もいなかったはずです。

住宅の欧米化や国土の狭さ、都心部の人口密集という事情は、マンション販売を正当化するためのものです。マンションを販売する理由にはなりません。なぜなら、「マンションを借りる」ことで解決できるからです。多くの企業がマンションを販売するのは、お客様(買い手)の利益を度外視してでも会社の利益を優先させていることに他なりません。

ドイツ初代宰相のビスマルクは、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」との名言を残しました。愚者は自分で失敗して初めて失敗の原因に気付き、その後同じ失敗を繰り返さないようになるが、賢者は過去の歴社上の失敗から学び同じ失敗をしないようにするという意味です。

マンションに限らず住宅の購入は、多くの人々にとって一生に一度あるかないかの大きな買い物です。その大きな買い物を、失敗してその原因に気づき同じ失敗を繰り返さないということが許容できるわけがありません。歴史の教訓から学び、絶対に失敗の許されないという意思決定をすべきものです。

ですから私は、住宅購入を希望する相談者たちに対して、該当地域における過去の自然的災害の状況を甘く見るなと、言い続けてきました。

ハザードマップの確認は必須!

海や河川の近くの住宅を希望する方には、必ず過去の被害状況を調べるようにとアドバイスをします。近年は各自治体が災害に関するハザードマップを公開しているので、確認するようにと言い続けています。

ハザードマップ例(千葉県市川市ハザードマップより)

また、例えば市川市のハザードマップの紹介欄の最上段では、「宅地建物取引業者の重要事項説明義務」について注意喚起しています。宅地、建物の取引業者は、購入予定者(あなたかもしれません)に対して、当該物件の掲載されたハザードマップを提示した上でそのリスクを説明する義務があります。マンションに限らず、宅地、建物を購入する際はこの点を重々確認するようにしましょう。

(市川市ハザードマップより)

  • この記事を書いた人

榎本研二

三京株式会社 代表取締役 【不動産鑑定業者登録番号 埼玉県知事(11)69号】  不動産鑑定士 榎本研二 不動産鑑定士として50年にわたって個人のマイホーム購入に絶対失敗しないためのアドバイスを提供。人生最大かつ最重要の買い物であるマイホーム購入前に、プロフェッショナルの見解を参考にしたことで、買ってはいけない物件を見送った方々はみな、現在ハッピーライフを送っています。複雑な不動産関連の税金対策も、ベテラン不動産鑑定士ならではの策を講じてみなさんの資産を守ります。

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